先日、高校生の頃によく作っていた、オルゴール曲の書法を思い出していました。
僕が作っていたのはゼンマイで動く金属のシリンダー式ではなく、厚紙にパンチで穴を開けた譜面を手回しで機械に通して演奏するアレです。商品名としてはオルガニートが有名です。
実はオルゴールにも機械構造による物理的な発音制限があるのですが、裏を返せばルールを守るだけでも、そのサウンド再現できるということです。それはレトロゲームのサウンドの制約に似た面白さがあります。
せっかくなので、オルガニートの譜面の作り方の解説でもよいのですが、ここは手軽にオルゴール音源を使って打ち込みで音楽を作ってみましょう。
もちろん、みなさんがDAWやシーケンスソフトを持っているという前提で書いていきます。
1.音源を用意する
オルゴールっぽいサウンドが出るものでしたら、なんでもいいと思います。お好きなものをどうぞ。
あてがない方はWAVESFACTORYよりリリースされているMUSIC BOXというフリーの音源がおすすめです。
なんと、ゼンマイを巻く音や動作音まで収録されています。
この音源はKONTAKTというソフトサンプラーで利用が可能なので、持っていない方はNI社よりフリーで配布されている簡易版のKONTAKT Playerをインストールしておきましょう。
2.譜面の打ち込み
初めから厳密な制約を意識すると作りづらいので、まずはシンプルなピアノ曲をイメージしながら作ります。
1から音楽を作ることに慣れていない人は、好きな曲のピアノ譜を参考に打ち込むのもよいと思います。
この段階で細部を作り込む必要はなく、あくまで全体の構成がわかる程度の下書きをしておきます。
注意点としては次の通りです。
- ダイアトニック・スケール内の音程を使う
- 音域は3オクターブ以内に収める
- 同時発音は3または4音にとどめる(リリース音は含めない)
- ベロシティは固定にする
以下はこだわりたい方向けです。
- シリンダー式を意識して15秒〜30秒のループにする
- 音域はオルゴールの「弁の数」を意識する。18弁、23弁、多くても30弁が一般的です(シリンダーの突起を引っかくやつです)
3.オルゴールらしいアレンジ方法
ここで細部を打ち込んだり間引いたりしていきます。
原曲に対する忠実さよりも、オルゴールでの鳴りの良さを意識することがポイントです。
同時発音は多用せず、音程は分散して配置する
ご存知のとおり、金属製の弁は独立したものではなく、振動板として一枚の櫛の形をしていることから、他の音程と同時に鳴らすほど、音が濁ってしまう原因になります。さらに小型のシリンダー式を意識するのであれば、ゼンマイや回転するシリンダーに対しても負荷が掛かるので、同時発音は3音程度にとどめましょう。実際のオルゴール製品でもそうした譜面作りになっているはずです。
16分音符以下の間隔で「同じ音程」を連続で鳴らさない
機械構造による制約で、このような連続音は一般的なオルゴールでは発声することができないので、音を間引く必要があります。
どれぐらい待てば同じ音程を鳴らすことができるのかというのは、想定するオルゴールの性能によると思います。例えばオルガニートの場合は、譜面上に8分音符の間隔までは連続で発声することが可能だったので、これを1つの基準として参考にするとよいと思います。
このルールを守れば、シンセサイザーでいうところのリリース音を含めた同時発音数は気にしなくてよいです。
上記の制約を穴埋めする形で、オクターブ音を初めとした別の協和音程を入れる
妥協案ですが、うまく音を配置すれば、これもオルゴール特有の響きにつながります。
さらに以下を意識すると、よりオルゴールのサウンドに近づきます。
- 音楽全体が濁らないように、ベース音は最低限の発音にとどめる
- 和音を響かせたいときは中音域をうまく使う
- 手動、あるいはヒューマナイズでごくわずかに発音のタイミングをずらす
- ゼンマイの存在を意識する、演奏時間に応じてテンポを変化させる
4.完成
試しに作ってみました。
この曲で実践しているのは……
- ダイアトニック・スケールの音程を使う
- 音域は3オクターブ以内に収める
- 同時発音は3または4音にとどめる(リリース音は含めない)
- ベロシティは固定にする
- 同時発音は多用せず、音程は分散して配置する
- 音楽全体が濁らないように、ベース音は最低限の発音にとどめる
- 16分音符以下の間隔で「同じ音程」を連続で鳴らさない
以上のルールです。それっぽく聴こえるでしょうか。
慣れてきたら初めから制約を意識して打ち込むことも可能でしょう。
もし生まれる時代や場所が異なっていたら、作曲家をやりながらオルゴールを作りたかったのですが、ピアノロールを眺めていてわかるのが、やっていることはMIDIデータの打ち込みもあまり変わりないということです。